昨年、ここひたちなかのグラス・ステージで、あまりにも劇的な「復活」ののろしを上げた岡村靖幸。30分弱と短いライヴだったけれど、あまりにも衝撃的だったその瞬間の記憶は去年のロック・イン・ジャパンに訪れた人達の脳裏には鋭く焼きついているはずだ。そして、それまで7年の間、表立った活動からは遠ざかっていた岡村ちゃんは、それをきっかけに一気に完全復活へのギアをどんどん上げていった。昨年の秋からのツアーを成功させ、そして今年に入って“モン・シロ”“ミラクルジャンプ”という2枚のシングルをリリース。間違いない、今年のひたちなかでは岡村靖幸の黄金のファンクネスが完全に蘇る――。夕暮れのフィールドに集まったお客さんたちの期待は、いやがおうにも高まっていた。

 ステージにはまずマニピュレーターが登場、「ねぇねぇ、なんか岡村ってさあ―」という女の子のサンプリング・ヴォイスをループさせる。歓声が響き渡り、一気にフィールドは後方まで埋め尽くされた。続いた超ファットなビートにのってぞろぞろとバンド・メンバーと二人のダンサーが現われ、そして遂に岡村靖幸が登場! 

最初の一音から黒く猥雑なファンクのビート、そのグルーヴの強度がとにかく驚異的だった。身体の芯のあたりが太いキックにずんずんと震える。そして岡村は「こういう機会だから言わしてもらうけど……まぁ正直……レッツ・ダンス!」と言い放ち、二人のダンサーたちとステージを縦横無尽に踊りまわる! 身体のキレもバッチリだ。いやがおうなく目を釘付けにする天性のエンターテイナーぶりがこれでもかと発揮される。そして曲は最新シングルのカップリング曲“ア・チ・チ・チ”や復活第一弾シングルの熱いR&Bナンバー“モン・シロ”、とにかくアップリフティングな“ステップUP↑”などなど、ノンステップで立て続けにどんどん続いていく。一時たりとも息をつかせぬ展開!

 途中で岡村ちゃんが一度ステージをしりぞき、マニピュレーターがステージに黄色い花の咲いた植木鉢(もちろん岡村ちゃんマーク入り)を持ってきて水をやる――という謎のパフォーマンスはあったけれど、ライヴはそれを除いて、ほぼ休みなしで続いていった。昨年のステージは皆があっけにとられている間に終わってしまった感もあったけれど、今年は岡村ちゃんも僕らも十分に準備万端だ。めくるめくエレクトロ・ファンクの狂演が、しびれるほどに続いていく。

 それにしてもこの音の分厚さは尋常じゃない。打ち込み+ドラムの強靭なビートに、ベース・ギター・キーボード、さらにはトランペットやサックスも従えた超豪華なバンド編成。海外のR&Bトップスターにも劣らないとすら感じられるサウンドの強度をバックに、岡村ちゃんはまるで水を得た魚のように、激しくダンスし、客を煽り、ソウルフルな歌声を震わせる。その一つ一つが、凄まじくパワフルだ。身体にファンクの血が流れているのだ。

 ラスト2曲は“だいすき”、そして“あの娘ぼくがロングシュート決めたらどんな顔するだろう”!! 岡村ちゃん屈指のポップ・アンセム2連発で、一気にグラス・ステージはクライマックスへ到達! しかもそのサウンドは21世紀型にリファインされて、まるで極上のダンス・ナンバーのような四つ打ちのしなやかなグルーヴを響かせている。フィールドは踊り狂わんばかりの熱狂だ。そして岡村ちゃんは「青春! ワン、ツー、スリー、ゴー!」のコール&レスポンスで会場を包み、かきむしるように弾いたギターを床に叩きつけ、「どうもありがとう!」と一声だけ残して去っていった。

 とにかく、圧倒的なファンクネスとグルーヴを見せつけた50分間だった。「完全復活」どころではない。これは岡村靖幸の、新たな進化形だ!(柴那典)